幸せとはこの事か

キンセンカ

俺は、辛そうな蒼星の顔を見て「あぁ、気づいてるんだ」と思った。
いつも笑顔を絶やさなかった蒼星がこんな顔をしてるなんて俺の前では少なくともなかった。
だからきっと俺が言おうとしてることわかってるんだろうなとも思う。
帰り道、蒼星の家が近くなって来たところで急に道を曲がり出す。
紅幸「蒼星、家こっちだよ」
そう言っても蒼星は歩く足を止めない。どんどん家から離れていくから咄嗟に腕を掴む。
紅幸「せい…」
蒼星「わかってるよ!!」
歩く足は止まり、蒼星は言う。
蒼星「わかってるよそんなこと。だけど、信じたくないよ…」
涙をぼろぼろ流しながら言う。
蒼星「あっくんは、前のあっくんじゃない。ずっとあっくんは私より…」
言いにくそうに口を強く噛んでいる。
蒼星「…わたし…より…お…」
紅幸「言わなくていい」
そうやって止めるしか俺はできなかった。
蒼星「…やっぱそうなんだね…信じあってると思ってたよ。」
ボロボロ流しながら俺の方を初めて向いてくれた。
蒼星「あっくん…いや、紀伊くん。ばいばい」
最後に辛そうな顔でわざと指で口角を上げて笑っている蒼星にちゃんと言わないとと思ってしまった。
紅幸「俺、蒼星の笑顔好きだった。可愛くて太陽みたいに明るくて。だけど、時よりそれがすごく辛かった。自分勝手でごめん。最後にクズ男でごめん。別れよう」
蒼星「っ…!!うん」
そう言って蒼星は家に帰るわけでもなくただひたすら俺から逃げるように前へ進んで行った。
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