乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!
「たまたま、その場に居合わせたから助けてくれただけなの。だから、私たちは何もないのよ」
「……ねえ、もしかして。その部下の方って、実はお見合い候補だったのではなくて? それで、彼はまだあなたに好意を寄せているとか」
「え! どうしてわかったの。私、そのことは言っていないのに」
「な、なんとなくよ。そうだったら運命的だなと思っただけで……」

 ちょうど、注文していたものが運ばれてきたので、会話は一時中断になった。

(まさか、前世の記憶からの言葉だとは言えないわよね……)

 黒蜜がかかった寒天を口に運んでいると、桃を食べていた百合子が雛菊に視線を合わせた。

「そういえば、雛菊はどうして今の人と婚約したの?」
「……わたくしは、公隆(きみたか)さんとは親同士が交流していて、親に勧められるまま……って感じかな。でも彼、会うたびに花やお土産をくれるの」
「いい人みたいね」
「ところで絃乃さんはどうなの? 気になる男の人でもできた?」
「えっ」

 まさか話の矛先が自分に向けられるとは思っておらず、動揺して寒天がぽろりと器に落ちる。そこへ雛菊が便乗してくる。

「あ、わたくしも聞きたいわ。結婚したい殿方とでも出会ったとか!」
「そっ……それは……」

 好奇の視線にさらされ、返す言葉に困る。事実なだけに、実はそうなんです、と肯定しづらい。

(どうしてわかったんだろう……そんなに私、喜んでいた?)

 浮かれていたかと問われれば、確かに嬉しかった。現実には会えない人物が目の前にいることだけでも奇跡的なのに、会話もできたなんて、喜ぶなというほうが無理な注文だ。
 どうにか話題を変えたいと思う絃乃に、雛菊が呆れたように目を細めた。

「白状しちゃいなさいよ。何かいい出会いがあったんじゃない?」
「……そんなに私ってわかりやすい?」
「うん。授業中も百面相してた」

 聞きたくなかった情報だ。たびたび思い出して一喜一憂していた自分を(いさ)めたい。しょんぼりと肩を落としていると、百合子が励ましてくれた。

「まあまあ、絃乃さんらしくていいのではなくって?」
「うーん。それが長所といえば長所だけどね」

 褒められているのか微妙な援護だったが、気の置けない友人に隠し事はできそうにない。

「私の心の変化が筒抜けの事態は置いておくとして、その……出会いはありました」
「やっぱり! 相手はどこの方?」
「お名前しか知らないの。まだそんなに会ったことがない方だから……」
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