初カノの忘れかた
ある日、ヒナが1時間目の休み時間に何かを探していたのか、ソワソワしている様子だった。そんなヒナが気になった俺は、勇気を振り絞り、声を掛けたんだ。

「どうしたの?」

「あぁ、佐山くん。ちょっとね、探し物をしてて。」

「何探してるの?俺も探すの手伝うよ。」

「え?良いよ、悪いし。」

「大丈夫だよ、どうせ休み時間にやるのは勉強か寝るくらいしかないから。」

「受験もあるんだし、勉強やってて大丈夫だよ。佐山くん、塾の宿題が大変だって聞いているし。」

「あぁ、宿題は大丈夫だよ。もう終わっているから。で、何を探せば良いの?」
本当は、塾の宿題は全く終わっていなくて内心は焦っていたのだが、この時は宿題よりもヒナのためにできることをしてあげたいという気持ちが勝ってたと思う。

「えっとね、携帯のストラップを探してるんだ。」

「ストラップかぁ。最後に見たのはいつ頃で、どこだったか覚えてる?」

「ううん、全く覚えてない。昨日の夜に無いって気付いて、家中を探してもなくて、朝は通学路を探しても無かったから、あとは学校しかないって思って。」

「そっか。分かった。」

そしてヒナが落としたストラップを一日中探してたんだけど、結局、見つからなかったんだ。この話のどこに俺のことを意識するポイントがあるのかって思うでしょ?

実際、俺自身もこの時は、ヒナが俺にこれで好意を持ってくれたなんて夢にも思ってなかったんだ。

で、ヒナと付き合った後に、俺のことを意識してくれるようになったのがいつだったのかって聞いたら、このストラップ捜索だって教えてくれてね。

どうやら、クラスの他の人たちが全く気にもせず声を掛けてくれなかったのに、俺だけが優しく声掛けて一緒に探しものを手伝ってくれたっていう行動がとても嬉しかったらしいんだよね。


え?なんで俺だけがヒナの様子が少し違うって気付けたのかって?
それは恐らく、ヒナのことが好きで、よく目で追ってたからじゃないかな。

冷静に考えると気持ち悪い感じに聞こえるけど、思春期の男女なんて好きな人がいたら、その人のことをずっと見ていたいって思うものでしょ。

まぁ、とにかくそんなことがあって、俺のことを少しずつ意識していったんだってさ。そしたら、俺の小さな親切とかが目に入るようになって、俺がすごい優しい人なんじゃないかって思ってくれたんだってさ。


それから中学校最後の夏休みに入る前、1学期の終業式の日にヒナが俺の携帯のメアドを聞きに来てくれて夏休みでも連絡が取れるようになって。

塾の夏期講習があった日の夜に、たまたまヒナが俺が通っている塾の最寄り駅で遊んでるっていう連絡があって、帰り道にヒナと会った時に、俺が告白したら成功して初めての彼女ができたんだ。


それから大学3年生まで、ずっとヒナと付き合ってて。
彼女と一緒にできることは、ほぼ全てをヒナと経験してきたって感じで。やってなかったことがあるとしたら、結婚くらいだったな。
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