竜王様、ご飯の時間です and more ! 〜竜王様と転生メイドのその後〜
 竜王城の一角、住み込み使用人用の部屋があるエリアは、まだ就業時間内だから使用人さんの姿はほとんどありません。外は薄暗くなりかけなので、廊下ももちろん薄暗い。私の足音だけが響いてるって、ちょっとホラーっぽくて怖いんだけど。急ぎ足で廊下を通り抜け、以前マゼンタと一緒に使っていた部屋のドアを開けました。
「うわぁ……綺麗に整えられてる……!」
 普段からきちんとしているマゼンタのところはちゃんと整理整頓されているのは変わらずだけど、私のテリトリーだったところが何事もなかったかのように掃除され、綺麗にベッドメイクまでされているのです。
 ここはあの日——ヴァヴェル人だったこと、そして私に課せられた密命を思い出し、牢屋に入れられて以来です。そんなことになるなんて夢にも思ってなかったから、あの日の朝、いつも通り乱雑……もとい、汚部屋……じゃない、片付いていない状態のまま、厨房に行ったんですよねぇ。その後、取るものとりあえず遁走しちゃったし。——ということは、マゼンタがここを片付けてくれたのかな。うわぁ、ものすごく申し訳ないことしちゃった。
 と、そんな反省は後からするとして。
「今度こそ〝脱・汚部屋〟するんだ……」
 ……って、無駄なフラグ立ててる場合でもなくて。綺麗に掃除してくれた使用人さんに感謝しつつ、今はお着替えです。
「あれ? カバンはどこ? カバンやーい」
 私が持ってきたカバンは竜王様が『部屋に持って行かせる』って言ったから、預けてきたんだけど……まだ運ばれてないのか見当たりません。
 広くない部屋の隅々——ちょっとマゼンタのところまで領域侵犯して探したけど、見つかりませんでした。
「きっと使用人さんみんな忙しい時間だから、手隙になったら届けてくれるでしょ。ていうか、そもそもお仕着せは支給品だから、そもそも私のカバンに入ってないじゃない」
 うっかりしていました。カバンがあったとて、お仕着せは入ってないんだった。
「盲点だったわ。お仕着せをもらうついでに、カバンのありかも聞いて受け取ってこよう」
 私と違って忙しい使用人さんの手を煩わせるものなんですしね。誰に聞こうかな。フォーンさんは……『自分のカバンの管理もできないのか!』とか無意味にブチギレられそうだからパス。やっぱりここはウィスタリアさんかな。ウィスタリアさんなら、きっとかばんのことも知ってるでしょう。お仕着せももらえるし。

 ということで、私はウィスタリアさん、もしくはフォーンさん以外の人を探して、部屋を出ました。


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