桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
契約結婚の優しさに触れて


 リビングに戻ると、ソファーに座りタブレットを操作している匡介(きょうすけ)さん姿を見つけて安心する。昨日の今日だから彼も部屋に篭ってしまうかもしれない、そんな不安があった。
 匡介さんも私が雷雨を苦手なのは知っている、だからと言って私から彼にどうしてほしいなんて口にしたことはない。
 だから、いまさらこんな時は傍にいてなんて口に出すことも出来なくて……

「今夜は部屋で休まないのですか?」

 どうしてこんな自分の気持ちと反対の言葉ばかりが出てくるのだろう? 本当に言いたいのはここに居てくれてありがとう、なのに。

「ああ、もうしばらくはここに居る。今日はまだやり残した仕事があるんだ、遅くなりそうだが君はどうする?」

 匡介さんは私に部屋に戻るか彼の傍にいるのかの選択肢をくれる、いつもならば杏凛は先に休みなさいというはずなのに。
 ……今夜はまだ二人でいてくれるってこと?

「では、もう少しここに。私、コーヒーを淹れてきますね?」

「ああ、頼む。杏凛(あんり)、君の分も用意してきなさい。少しの時間でいいから眠くならないように俺の話し相手にでもなってくれ」

「……はい」

 匡介さんがそんな事を言うなんて珍しい、仕事の話も私相手にはほとんどしたことなんてないのに。
 私は丁寧に二人分のカップにコーヒーを淹れると、少しのドライフルーツやチョコレートと一緒にトレーに乗せてリビングへ。
 甘いものが好きな匡介さんにはこうやって、摘まめるようなお菓子を出すようにしている。一度そうした時に、彼の口角が僅かに上がった事に気付いたから。


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