桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜


 目の前のトレーに置かれているのは、二人では絶対に食べきれない量のポップコーン。匡介(きょうすけ)さんの好みなのか、キャラメルの甘い香りがしてくる。
 ドリンクは私が選んだのがメロンソーダで、匡介さんはコーラ。なんとなく普段頼まない飲み物を選びたくなったから。それにしても……

「ビックリするほどコーラが似合いませんね、もしかして無理をしていませんか?」

「…別に無理などしていない」

 もしかして映画の飲み物はコーラががオススメですよ、なんて間違った情報でも仕入れてきたのかしら? 普通は信じないと思うけれど、この人ならそのまま行動に移してしまいそうな気がする。
 さっきから飲み物を口にするたび微妙な顔をしているので、やっぱり苦手なんだと思う。

「匡介さん、私が別の飲み物を買って……」

「必要ない。杏凛(あんり)が離れている間に始まってしまっては意味がないから」

 何をするにしても私が優先で、どうしてこんなに大切にしてもらえるのか理解できずにいる。三年経てば何もかも無駄になるのではないですか?
 この一緒に過ごした時間も、今私のために使っているお金だって……
 私が鏡谷(かがみや)コンツェルンや匡介さんのために役に立てることは無い、そんな私に彼は次から次へと色んなものを買い与えようとする。

 何度十分なのだと断ってみても、毎回のように匡介さんに押し切られてしまってる。

「困るのに……嫌じゃないなんて」

「どうした、杏凛? もう始まるぞ」

 明るかったシアター内の照明が落とされ薄暗くなる、匡介さんの隣とはいえ久しぶりの映画に少し胸が弾んでいた。


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