彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
信号待ちになり、ずっと沈黙していた柊がそっと樹里の手に手を重ねてきた。
とても暖かい柊の手の温もりに、樹里はハッと視線を上げた。
「やっぱり体が冷えていますね」
そう言われると、樹里はドキッと胸が高鳴ったのを感じた。
「なにか温かい物でも食べませんか? 」
温かい物って…そんなこと言われても、何も食べたいとは思わないけど。
そう思っていると、信号が青になり車が走り出した。
重ねられていた手にはまだ、柊の温もりが残っている…。
その手を樹里はそっと、胸にあてた…。
胸に手をあてると、何故かじんわりと温かくなってゆくのを感じる…。
どうして、この人はこんなに私に優しくしてくれるのだろうか?
(お前は買われてきた子供なんだ。お前は血が繋がらない子供なんだ)
(母さんがいなくなったのは、買われてきたお前がいるからだ! )
(お前が母さんを追い出したんだ! )
繰り返される言葉が頭の長に響いてきて、樹里はギュッと目をつむった。
間もなくして。
賑わう港町の声が聞こえてきて、樹里はゆっくりと目を開いた。
港の駐車場。
そこから見えるのは停泊している大きな船。
旅客船だろうか? フェリーだろうか?
大きな船に樹里は見惚れていた。
ガチャッと助手席のドアが開く音がして、樹里はハッと我に返った。
「さぁ、行きましょうか」
まるでどこかの国の皇子様のように、スッと手を差し伸べて樹里を助手席から降ろしてくれた柊。
足元がよろけそうになった樹里だが、そっと柊が支えてくれた。