彼と彼女の取り違えられた人生と結婚

 たどり着いたのは最上階。
 スイートルームのようだが、特別な贅沢感はなく、広々とした空間に白いシーツに包まれたダブルベッドが置いてあり、テレビと黒皮のソファーにテーブルが置いてある。

 窓からは綺麗な星空が見て夜景が綺麗だ。


 樹里が部屋を見渡していると、柊が手際よくお風呂を用意してくれた。

 お湯を貯める音が聞こえてきて、樹里はハッとなった。


「樹里さん、先にお風呂入って下さい。体が冷えていますので温まった方がいいですから」
「は…はい…」

 恥ずかしさもあり、柊と目を合わせないようにして樹里はお風呂へ向かった。



 洗面所と脱衣所は広く、お風呂の中も広々としていてちょっとした温泉気分が味わえそうな雰囲気でバズタブもゆったりと広い。
 
 シャワーを浴びながら、一通り洗い終えた樹里はゆっくりと湯船に浸かった。

 温度も丁度良く、入浴剤が入れてあるがほんのりと柔らかいバラの香りが心地よかった。
 
 手足を伸ばしてゆっくりとお風呂に入るなんて…どのくらいぶりだろうか?

 そう思って天井を見上げた樹里。

「樹里さん。入ってもいいですか? 」

 え? 

 声がして驚いた樹里は、浴室のドアを見た。

 ドアの向こうには全裸であろうと思われる、柊の姿がすりガラス越しに映し出されていた。

 どうしよう…。

 樹里がそう思っていると、ガチャッとドアが開いた。

 
 恥ずかしい!

 樹里は背を向けた。 

「ごめんなさい。待っていたのですが、俺も寒くなってしまって入ってきました」

 ジャーっとシャワーの音がしてきて、柊が洗い始めたのが判った。

 どうしよう。
 今先に上がっても、結局その後は見られてしまうわけだし。
 でも、こんなに明るい場所で全てを見られるのも恥ずかし…。

 
 キュッとシャワーが停まる音がして、柊が近づいてくる足音が聞こえて来た。

 
 やばい…これは出なくては…。

 ギュッと目をつむって立ち上がろうとした樹里と、ふわりと優しく柊が包み込んだ。

「行かないで下さい。やっと、捕まえることができたのですから」

 包み込まれてそっと湯船の中に入れられて。
 なんだか優しいベールに包まれたような気持になれた。
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