彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
僕の部屋見たよね?
「あれ? 今日はもしかしてビーフシチュー? 」
嬉しそうに声をかけて来た宇宙を無視して、樹里は煮だった鍋に歩み寄り具材をかき混ぜてルーを入れた。
グツグツと煮だっている鍋の中を見て、ふと調味料と一緒に置いている小さな赤い瓶に目をやった樹里。
そうだ…あれで…。
樹里はそのまま赤い瓶に手を伸ばした。
が…
「あれ? こんな可愛い瓶があったんだ」
樹里が手を伸ばす先に、宇宙が瓶を手に取ってしまった。
なんで?
驚きを隠しつつ、樹里は宇宙を見ていた。
「調味料と一緒って事は、これも何かにかけるとか。味付けに使うんだよね? 」
ニコッと笑って宇宙は樹里を見た。
樹里は何も答えず、そっと視線を反らした。
なんなの? この笑顔。
なんだか見抜かれている?
「ねぇ、樹里ちゃん」
なに?
ちょっと恐る恐る、樹里は宇宙を見た。
ニコッと笑っていた表情を、急に真顔に戻した宇宙はじっと樹里を見つめてきた。
「樹里ちゃん。…僕の部屋に、入ったよね? 入ってはだめだよって、言っておいたけど」
嘘…バレている? どうして?
目を泳がせて、そっと視線を反らした樹里は1ヶ月前の事を思い出した。
1ヶ月前。
結婚して1ヶ月経過した頃。
樹里は代休で平日休みをもらい、家でのんびり過ごそうとしていた。
宗田家に来た時に宇宙から
「僕の部屋は絶対に入らないでね。部屋の掃除は、自分でやらないと気が済まないんだ。やってもらうのはとても有難いんだけど、置いてある物を動かされてしまうと探さないといけないから面倒だし。そのままにしておいてもらった方が、楽なんだ」
そう言われていた。
だが樹里にはどうしても調べたいことがあった。
その為に樹里は、平日で柊も宇宙も仕事に行ってしまい一人になった時間を利用してこっそり宇宙の部屋に入ってみたのだ。
もちろん掃除をする気はなかった。
ただ、どうして自分の部屋に入れたくないのか。
それにはきっと、重大な秘密があると察したのだ。
その秘密はきっと、樹里が一番知りたい事だと確信していた。
そんな気持ちで樹里は宇宙の部屋に入ってみた。