彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
柊は辺りを見渡した。
「すみません。俺の鞄をとってもらえますか? 」
ソファーの傍に置いてある黒い鞄を指して柊が言った。
言われた通り鞄をとって渡した樹里。
鞄の中から柊は小さな箱を取り出した。
「樹里さん、これ受け取って下さい」
差し出された小さな箱。
それは指輪ケースだった。
指輪なんて今更…。
そう思った樹里だったが、素直に受け取った。
中を開くと、綺麗に輝くダイヤの指輪が入っていた。
こんな指輪買うお金持っていたの?
驚いた目をして樹里は柊を見た。
「本当は、結婚が決まった時に渡すべきでしたが。事情が事情だったので、遅くなってしまってすみません」
樹里は指輪を手に取った。
リングはプラチナで内側に「永遠の愛を柊」とローマ字で刻まれていた。
そのまま指輪をはめてみた樹里。
左手の中指にはめてみると、ぴったりだった。
「良かったです、サイズピッタリで」
「有難うございます。こんなに高価なものを」
「樹里さんと気持ちが通じ合えたので、形になるものをと思ったのです」
樹里の左手の中指で綺麗に輝くダイヤの指輪。
指輪がもらえるなんて思っていなかった事から、樹里は夢を見散るような気持を感じていた。
10時を回る頃になると宇宙が柊の着替えを持ってやって来た。
「1週間ほど入院で、後は2週間ほど自宅療養しながら通院して下さいと言われているから、ゆっくりやすめばいいよ。仕事の事は、気にしなくていいから」
荷物を整理しながら宇宙が言った。
「負担をかけてしまって、すみません」
「何を言っているんだ、色々大変だったんだ。少し休息する事も、必要だ」
「そう言って頂けると、助かります」
「そう言えば柊、お前は刺した相手の顔を見なかったか? 」
手を止めて宇宙は柊を見た。
柊はスッと視線を落とした。