彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
 
 フロア全体が赤い絨毯で敷き詰められている中、受付まで急ぎ足でやって来た優。

 優を待っていたのは2人の刑事だった。

「どうも、お忙しい中申し訳ございません」

 警察手帳を見せて刑事が挨拶をした。


 受付の待合室に通して、優は話を聞く事にした。


「突然恐縮ですが。上野坂大紀さんは、息子さんでお間違いないでしょうか? 」

 向かい合わせで座った刑事が、イカツイ目つきで尋ねてきた。

「はい、私息子です。どうかしましたか? 」
「息子さんは、今はどちらにいらっしゃいますか? ご自宅にお伺いしたのですが、お手伝いの方がずっと帰っていらっしゃらないと言われまして」

「お恥ずかしいのですが、息子は1年以上家には戻ってきておりません。家庭の事情で、私が息子を家から追い出しました」
「なるほど。それで今は、ご連絡は取っていらっしゃるのでしょうか? 」

「半年前までは、よくお金の要求で電話がありましたが。今は全く音沙汰がありません」

 2人の刑事は顔を見合わせた。

 その様子を見て、優は大紀が何かしら疑われているのだと察した。

「実は、息子様には傷害事件の容疑がかかっております」
「傷害事件ですか? 」

「はい。昨日、ある男性がこのオフィス街で刺されたのですが。その男性と息子さんが一緒にいるところを、目撃した人が多数いらっしゃいます。なにやら詰め寄っていた様子だったとの証言です」
「大紀が…そんなことを…」

「それからもう一つですが。息子さんは、横領容疑のかかっている女性と一緒にいると言う目撃情報もはいっているのです」
「横領容疑の女性? 」

「はい。ご存知かもしれませんが、このオフィス街にある大企業が。2ヶ月ほど前に、社員が100憶円横領して逃走した事件が発生しております。その容疑者と、息子さんが一緒にいるところを目撃している人が複数いましてね」

 100憶の横領…それは、宗田ホールディンの事だろう。
 容疑者と大紀が一緒にいるとは…どうしてなのだ?
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