彼と彼女の取り違えられた人生と結婚

 唇が離れると、柊はそっと樹里に微笑んだ。
 
「今日もまた元気になれました」

 樹里は頬を赤くして俯いてしたまった。



 それから間もなくして樹里は出勤して行った

 病院の窓から柊はそっと見送っていた。



 
 太陽が心地よい爽やかな日。

 13時を回る頃。

 柊はリハビリも終わりのんびりと、ベッドの上で本を読んで過ごしていた。
 お昼を食べた後でもあり、ちょっとうとうととしている。

 コンコン。
 ノックの音にハッと目を覚ました柊。

「はい、どうぞ」

 柊が返事をすると、ゆっくりと病室の扉が開いた。

 開いた扉をじっとみている柊。

 
 コツン…コツン…
 ゆっくりと足音が近づいて来て、やって来たのは…

 大紀だった。

「こ…こんにちは…」

 緊張した面持ちで挨拶をした大紀は、優が用意してくれていたスーツを着ていた。
 紺色のシックなスーツに白いシャツ、ネクタイは無難なえんじ色で靴も落ち着いた黒。

 昨日はちょっとボサボサだった髪も、今日は綺麗に整えている。
 そんな姿を見ると、大紀は優に似ていて、落ち着いた紳士的な男性に見える。

「こんにちは。来て頂いて、有難うございます」

 自然な笑顔を返してくれた柊に、大紀は申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「あ…あの…」

 何かを言いたそうであるが、なかなか言葉にできないようで大紀はモジモジとしていた。

「もういいですから、何も気にしないで下さい」

 少し声を小さく柊が言った。

 大紀は口元をギュッと引き締めた黙ってしまった。

「俺、貴方のことを責める気は全くありませんので安心して下さい」

 本当かよ? 
 大紀はちょっと睨むように柊を見た。

「本当に相手の顔なんて、見ていませんから。何も覚えていませんし。なので、これからはお兄さんとして俺と仲良くしてもらえませんか? 」
「はぁ? 」

 何を言っているのだ? と、キョンとした大紀に、柊はそっと微笑んだ。

「だって、樹里さんのお兄さんじゃないですか。なので、俺にとってもお兄さんになりますから」

 
 なんだ、そうゆう事か。
 こんな兄貴でいいのか?

 大紀は小さく笑った。
< 84 / 109 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop