彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
夜になり。
いつも通り仕事を終わらせた優は、有希との約束の為受付ロビーへとやって来た。
受付ロビーには小柄で、キツイ目をした茶色いボブヘヤーの女性がいた。
オフィスビルには相応しくないジャージのような上着に、ジーンズとスニーカー姿で鞄はリュックの良な黒い物を持っている。
待っている間タバコを吸っていたようで、灰皿には数多くのたばこの吸い殻が残っていた。
「お待たせしました」
スーツ姿で現れた優に、座ったまま頭を下げた有希。
有希の姿を見ると、優はどんな人間なのかよく判った。
企業の社長に会いに来ると言うのに、相応しくない恰好…お金を貸してほしいと頼んでいる相手に対して、敬意もない…タバコの匂いをプンプンさせて失礼にもほどがある。
優は半分呆れた気持ちで向かい側に座った。
「昨日のお話にありましたお金の件ですが」
優がお金の話を切り出すと、ギロっと期待に満ちたような目を向けてきた有希。
「お金をお渡しする前に、確認したいことがあるのですが。宜しいでしょうか? 」
なに? と、反抗的な目を向けて来た有希。
「大紀は、本当に大病を患っているのでしょうか? 」
「そうよ、昨日話したでしょう? 」
イラっとした目で答え来た有希。
その目を見ると、優は有希が嘘を言っている事を確信した。
「判りました」
そう答えた優はゆっくりと、入り口の方へと目を向けた。
すると…。
ドアが開いて、2人男性が入って来た。
「早くお金を渡して下さい。こうしている間にも、大紀さんの病気は進行しているのですよ」
焦りを出してきた有希が、お金を急かしてきた。
優は落ち着いた表情のまま黙っていた。
「何をしているの? 早くしてよ! 」
バン! とテーブルを叩いた有希。
優は小さくため息をついた。