彼と彼女の取り違えられた人生と結婚

 夜になり。

 いつも通り仕事を終わらせた優は、有希との約束の為受付ロビーへとやって来た。

 
 受付ロビーには小柄で、キツイ目をした茶色いボブヘヤーの女性がいた。
 オフィスビルには相応しくないジャージのような上着に、ジーンズとスニーカー姿で鞄はリュックの良な黒い物を持っている。

 待っている間タバコを吸っていたようで、灰皿には数多くのたばこの吸い殻が残っていた。

 
「お待たせしました」

 スーツ姿で現れた優に、座ったまま頭を下げた有希。

 有希の姿を見ると、優はどんな人間なのかよく判った。
 企業の社長に会いに来ると言うのに、相応しくない恰好…お金を貸してほしいと頼んでいる相手に対して、敬意もない…タバコの匂いをプンプンさせて失礼にもほどがある。

 優は半分呆れた気持ちで向かい側に座った。


「昨日のお話にありましたお金の件ですが」

 優がお金の話を切り出すと、ギロっと期待に満ちたような目を向けてきた有希。

「お金をお渡しする前に、確認したいことがあるのですが。宜しいでしょうか? 」

 なに? と、反抗的な目を向けて来た有希。

「大紀は、本当に大病を患っているのでしょうか? 」
「そうよ、昨日話したでしょう? 」

 イラっとした目で答え来た有希。

 その目を見ると、優は有希が嘘を言っている事を確信した。

「判りました」

 そう答えた優はゆっくりと、入り口の方へと目を向けた。

 すると…。

 ドアが開いて、2人男性が入って来た。


「早くお金を渡して下さい。こうしている間にも、大紀さんの病気は進行しているのですよ」

 焦りを出してきた有希が、お金を急かしてきた。

 優は落ち着いた表情のまま黙っていた。

「何をしているの? 早くしてよ! 」

 バン! とテーブルを叩いた有希。

 優は小さくため息をついた。
< 86 / 109 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop