冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


三月十四日、水曜日。
十八時すぎのオフィスは、営業部の人も戻ってきつつあり、賑やかだった。

バレンタインの日もそうだったけれど、一応、チョコやらクッキーを渡すのは就業時間をこえてからというのが暗黙の了解らしく、この時を待っていたようにそこら中で「え、いいんですか?」「ありがとうございます」といった会話が繰り広げられる。

ちなみに、江並さんが代表して買ってきてくれたチョコは、筧さんが男性社員に配って歩いていた。
これも毎年のことらしい。

『女性社員一同からバレンタインのチョコですー』と甘えた声でチョコを手渡された男性社員は笑顔を浮かべていて、これも私の不得意分野なので、筧さんが上手くこなしてくれてありがたかった。

「出穂さん。今、大丈夫?」

給湯室で日中使ったカップなどの洗い物をしていた時に話しかけられる。
手を止めて顔を上げると、給湯室の入り口に本島(もとじま)さんの姿があった。

同じ部署の本島さんは二十代後半の男性社員だ。
話しやすい雰囲気で、江並さんにからかわれているのをよく目にするし、江並さんと三人でランチをとったこともある。

でも、こうしてふたりで話すのは初めてなだけに、日中の仕事でなにかミスをしただろうかという心配が真っ先に頭をよぎった。

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