冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


「岩倉さん?」

帰宅した出穂が、恐る恐るといった声で呼ぶ。
十九時半の帰宅は俺にとっては早い。そのため、玄関で俺の靴を確認はしたものの、半信半疑なんだろう。

キッチンに立つ俺を見た出穂がどこかホッとした顔をするのを見て「おかえり」と声をかけると、「ただいま、です」とへらっとした笑顔が返ってきた。

こいつの、どんな時でもまずヘラヘラ笑うところは最初は頭にきたけれど、もう慣れた。

最近立ち聞きしたこいつの生い立ちと、前の会社での扱いを知ってしまえば、さすがの俺でも文句は出ない。

周りを不愉快にさせないようにとせめて笑っているのに、それを指摘されるのはあまりに不憫すぎる。

それに、ツラかったり苦しかったりするのに助けを求めずただ笑顔でいられると腹も立つけれど、そういう事情がなければこいつの笑顔は悪くない。

『仕事を終えて、ただいま帰宅しました』

思い返すと自分でもどうかと思うほど強引に同居を始めて二ヵ月。

最初の頃はやけに事務的だった挨拶からも、ようやく固さが抜けた。
焦るつもりはないにしても、家でくらいは息を抜いてくれたらいいと思っていたので、その変化は嬉しいものだった。

引っ越してきた当初の出穂の様子はひどかったから、余計かもしれない。

前の会社に提出する退職届を書かせたまではよかったにしても、そこからが大変だった。


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