冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


よほど上司が怖く報復を恐れたのか、それとも他の社員に迷惑をかけたことからくる自己嫌悪に耐えられなかったのか、出穂は一時期、部屋から出られなくなった。

働いている間の出穂は、傍から見ても疲れ切っていたし、エレベーターで乗り合わせたときには視点も定まらない状態だった。
とてもじゃないけれど見ていられないと思い、かなり強引に職場から離したが、その判断が正しかったのかどうかを再考したのは一度ではない。

それほどに、あの頃の出穂は危うかった。

『大丈夫です』

口ではそう言っても、瞳に浮かぶ感情は不安や焦燥、恐怖が入り混じっていて、どこからどう見ても正常ではなかった。

メンタルの崩れについて調べ、大丈夫かどうかを尋ねる聞き方はよくないと知ってからは、なにが不安なのか、困っていることはなにか、出穂が具体的に答える必要のある問いに変えた。

せっかく周りを囲んでも、大丈夫大丈夫と自己完結されては意味がない。

調べてみてわかったが、DV被害者がなかなか加害者の傍から離れられないだとか、犯罪に巻き込まれた被害者が犯人に抱くストックホルム症候群だとかと近いものがあったのだと思う。

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