冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
自分の生活リズムが周りとズレている自覚はかろうじてあるので、ドアの開閉には気を付けていたのだけれど、ついにクレームがついたようだ。
でも、男性はわからなそうに「別に迷惑はかけられていない」と言ったあと、観察するように私をじっと見た。
そして、一歩二歩と近づいた男性が、私の横の壁に手をつく。
靴のつま先同士がぶつかるような距離に驚いて目を見開いた私が、男性の瞳の中に映っているのが確認できるような至近距離だった。
一年ほど美容院に行っていないせいで胸のあたりまで伸びている黒髪。二重の目と、小ぶりな鼻と唇。どこをとっても、美人とはいいがたい普通の私が男性の目の中にいた。
「……あの?」
私の健康状態でも確認するかのように慎重に顔を見ていた男性が離れる。
今のは一体なんだったのかを聞きたかったのだけれど、それよりも男性の見た目のよさに改めて感心してしまい、すぐに声が出なかった。
二重の目も鼻も唇も眉さえも形が整っている。輪郭はすっきりとしていて無駄がなく、これ以上完璧な顔なんてないんじゃないかとすら思った。
向かって左眉の上でわけられた黒髪は自然に流されている。
濃いグレーのスリーピースに合わせるネクタイはワインレッド。顔立ちも相まって、パーティー帰りかと思うほど華やかだ。
キラキラしすぎて、寝ても回復しない疲れ目にも、二ヵ月近くずっと靄がかかりかすんでいる頭にも毒なほどだった。
「608の岩倉だ」と名乗られる。
部屋番号はやっぱり私の隣だった。