冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


二月に入ると、社内がどこか色めきだっているように感じた。
江並さんの話によれば、バレンタインに向けて女性社員も男性社員も気合いが入っているらしい。

そういえば、学生の頃、バレンタイン近くになると男子が急に優しくなると女子の間で笑い話になっていたっけと思い出す。

その現象は社会人になっても続いているようだった。

「やっぱりいくつになっても貰って嬉しいものなんだろうね。さすがに数で競うとかはないだろうけど」
「営業の方とか、たくさんもらいそうですよね」

岩倉さんもものすごい貰いそうだな……と考えながら他のフロアにある部署に届け物をして戻ってくる途中で、通路に甲高い声が響いた。

姿は見えないので、曲がった先で誰かが話しているらしい。

「筧さんの声じゃない?」という江並さんが、壁に隠れながら通路の向こうを覗く。
それから私を振り返り、おいでおいでと手を招いた。

「あっち向いてるし、大丈夫そう」

暗に一緒に覗こう、と言われ戸惑いながらも江並さんにならうと、通路の奥には筧さんと岩倉さんの姿があった。

この先は備品倉庫だ。筧さんはいいにしても、顧問弁護士の岩倉さんが通るような場所じゃない。
だから不思議に思っていると、江並さんが言う。

「どうせ筧さんがなにか言ってここまで連れてきたんでしょ。備品倉庫なんて使うのうちの部署だけだし、ここってほとんど人が通らないから穴場なんだよね。かなり前だけど、不倫カップルがここで逢引してたとかって噂もあるし」

< 98 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop