食リポで救える命があるそうです

・【苦手分野じゃないんですね】


 魔法の特訓中、私は怪我をしてしまい、リュートさんはすぐさま私の怪我を回復魔法で治してくれた。
 その時、なんとなしに私は
「回復魔法は苦手分野じゃないんですね」
 と言うと、リュートさんは急に黙ってしまった。
 意味深そうに俯いて、小さく頷くだけだった。
 それから私は自主練に励んだけども、リュートさんは家の中に入ってしまった。
 やってしまった、と思った。
 絶対何らかの地雷を踏んでしまった、と。
 でも分かんない、そんなこと分かんないし、でも人をあんな表情にしてはいけない、と自分を責めたけども、それはすぐに辞めた。
 だって私が悪いわけじゃないし。
 それ以上に私は言いたいことができたんだ。
 私は魔法の練習を終了し、リュートさんの部屋へ行った。
 リュートさんはベッドの中に入って、ひっそりとしていた。
「リュートさん、具現化魔法を使えるようにして下さい」
「……分かった」
 小さい声でそう返事したリュートさん。
 私はリュートさんの近くに行って手を差し出した。
 リュートさんは無言で私の手を握った。
「じゃあすぐに料理用意するんで、完成したらすぐにテーブルの、私の部屋に来て下さい」
 そう言って私はテーブルの部屋に行き、皿を置いて、詠唱した。
「できました!」
 そうあえて大きな声を出しながらリュートさんの部屋をノックした。
「いつでもいいんで、こっちに来て下さいね!」
 と言って私は引っ込んだんだけども、リュートさんは思った以上に早くこっちに来てくれた。
 皿の上を見るなり、リュートさんは、
「すごいな……」
 と生唾を飲みこんだ。
 それもそのはず、これは原宿で人気のパンケーキだから。
 派手も派手で、フルーツもコンポートもジャムも生クリームもチョコクリームもアイスも乗りまくりのもはや大変態メニュー。
 パンケーキ女子の魂が全部乗っかったヤバイ・パンケーキなのだ。
 リュートさんが席に着いてくれたところで私は喋りだした。
「私はごちゃごちゃしていていいと思うんです!」
「……急にどうしたんだ」
 まだ少し元気が無いようなリュートさんに、わざと圧を掛けながら喋る。
「いろんな感情があって、いろんな言えないことがあって、いろんなつらいことがあって、それでいいと思うんです!」
「そうか」
「そうです! それをいちいち詮索はしませんし! なんなら私だってこの生活で嫌なこともありますし!」
「そうなんだ、ゴメン」
 私は首を激しく横に振った。
「申し訳御座いません! つらいのは全然リュートさんのせいじゃないです! 私はリュートさんと一緒で楽しいです!」
「……」
「リュートさんで良かったです! いつも明るく楽しいです! でもだからっていつも明るく楽しくいる必要は無いんです! 私のことは気にせず生きて下さい!」
「……いや」
「いえいえいえ! 気にせず生きて下さい! リュートさんもきっといろいろあったからこそ村に住まないで、こんなところで一人住んでいるのでしょう! それなのに私は空気も読まずに弟子入り志願して一緒に住んじゃってどうもすみません!」
「……」
「でもすみませんとは本当は思っていません!」
「……えっ」
「私は楽しいからそれでいいと思っているんです! そんなんでいいんじゃないんですか! この喋りだって結局私のエゴです! 嫌なことがあったら嫌と言って下さい! でも言わなくてもいいです! 好きにして下さい! ここはリュートさんの家なんで!」
 リュートさんは黙って俯いてスプーンで、パンケーキを食べ始めた。
 モチャモチャと噛みしめるリュートさんはこう言った。
「甘いな……甘いな……どっちも甘いな、だからそれでいいんだ、ありがとう、ユイ。俺もユイで良かったよ」
 こっちへ向かって笑顔を振りまいたリュートさん。
 何だか私は急にドキドキと心臓が高鳴り始めた。
 この感覚、一体何なんだろう、いや分かっているんだ、きっともっと早く分かっていたんだ。
 私は多分リュートさんが好きだ。
 ドジでアホだけども、そこが可愛いし、修業はしっかりつけてくれるところも好きだ。
 リュートさんは続ける。
「俺さ、昔は仲間がいっぱいいたんだ。だから回復魔法も得意だったんだよ」
「……大丈夫ですよ、リュートさん。話したくないなら話さなくていいんですよ」
「いいや、話させてくれ、ユイ」
「分かりました」
 リュートさんは一旦スプーンを置いて喋りだした。
「いつしか俺の魔法は強力すぎるという話になってな、暴れ出したら誰にも止められないという雰囲気になって、迫害されたことがあって、俺はもう人間が嫌いになって」
「そうなんですか……」
 でも不思議だ。
 何でそんなつらい話なのに、リュートさんはどこか微笑んでいるんだろうと思ったら、リュートさんは最後にこう言った。
「でも、ユイと関わっていくうちに、もう一回人間を信じてみるか、と思ったよ。ありがとう、ユイ。好きだよ」
 好きだよ、って……私はみるみる耳まで紅潮していっていることを感じた。
 そんな急にそんなことを言われても……と思っていると、
「というわけでこれからもよろしくな!」
 と快活に笑ったリュートさん。
 いつものリュートさん、だけども、この場合はいつものリュートさんであることがちょっとムカつくな。
 どうやら今の”好き”は異性愛としての好きではないらしい。
 ただの人間愛としての好きみたいだ。
 私だけ赤くなって損したと思いつつ、私は用意していた自分用のスプーンでパンケーキを食べた。
「あっ! 俺のなのに!」
「いいえ! 二人のです!」
 私とリュートさんはまるで親友のように一つの仲良くパンケーキを二人で食べた。
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