飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
「私もこんな事が役に立つ日が来るなんて思わなかったの。だけど、こうでもしなきゃ貴女は私とは会ってくれないでしょう」
そう言えば梓乃は大げさにため息をついて肩を落とす。私たちの作戦にあっさり掛かったことが悔しいというようには見えないけれど……
「普段会わない知人からいきなりホテルのスイーツビュッフェの誘いなんておかしいとは思ったのよ。だけど、ずっと行きたかった場所だったし……」
「そうだよね、君はそういうの警戒が強そうだとは思ったんだ。でも意外と食いしん坊なんだって千夏から聞いていたからね」
「か、櫂さん! 私はそんな言い方は……!」
食いしん坊という言葉を聞いた梓乃からギロリと睨まれつい焦ってしまう。甘い物が好きそうだとは言ったが、そこまでハッキリとは私は言ってないのに!
「そうよ、私は食べることが大好きだし食いしん坊であってるわ。でも、あの家に暮らしていればそれくらいしか楽しみが無かったもの」
「……梓乃」
あの家で暮らすことが苦痛だったのはずっと私だけだと思ってた。だけど今の梓乃の言葉を聞くと、それは私の勝手な思い込みだったようで……
確かに二階堂の屋敷で暮らしていて、梓乃の笑顔を見ることはなかった。姉や兄は私に嫌がらせする事で鬱憤をはらしていたが、彼女はそれに加わる事も無かったし。
ずっと遠くから何を考えているのか分からない無表情で見つめていただけで。