暁のオイディプス
 「……かつてはそなたの父と対立し、対抗勢力などを結集し武力衝突に発展したこともあったが、今となってはこうして鷹の面倒を見たり、絵を描いている時間のほうが大切だ」


 昔は父に無謀にも戦いを挑み、敗れて追放の憂き目を見たこともあるが、徐々に父に勝つことはもう不可能であることを悟られ、今は形だけの守護の地位に甘んじていらっしゃる。


 申し訳なさを感じるが、文化や芸術を愛される御屋形様が美濃一国を治めるよりも、周辺諸国を抑えてこの国を強くしていくためには、父の強引さのほうが今は必要なのかもしれない……。


 「尾張に嫁いだそなたの妹は、どんな様子だ? 便りなど届いたか」


 「はい。織田信秀どののご子息とはいえ、たわけ者だとか称されているという話でしたので、どうなることやらと危惧していたのですが。それが案外上手くいっているようなのです」


 「たわけではなく大うつけだったと記憶しておるが、いずれにしてもそのような問題児と上手くいってるのか」


 「帰蝶は父にそっくりで、美濃一番のじゃじゃ馬娘でしたので、おそらく意気投合したのでしょう」


 「それは何よりであるが……。利政には正室との間に他にも子がおるが、そなたは他に兄弟姉妹一人もいない。これから斎藤家の家督を継ぐにあたって、立場が不安定で苦労することも多いと予想されるが、困った時は迷わず私を頼るのだぞ」


 「勿体ないお言葉にございます」


 「そなたは深芳野(みよしの)の忘れ形見。私にも縁浅からぬ存在だ」
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