暁のオイディプス
 「今日はありがとうございました。お借りしました和歌集は、大切に読ませていただきます」


 夕刻、土岐の御屋形様の居城を後にした。


 父の名代として時折顔を出しているのであるが、その都度古典の書物などをお借りしている。


 美濃では到底望めないような古書が、京まで出向かずともこの土岐の家にはたくさん所蔵されている。


 さすが源平時代から続く名家。


 できれば私も、こんな家に生まれたかったとつくづく思う。


 いつも戦のことばかり考えている父上よりも、土岐の御屋形様みたいに文化や芸術に造詣の深い、穏やかな御方が父親だったならば……とも。
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