暁のオイディプス
 「そんなの耐えられるか? 一年に一度しか会えなくなってしまったら、どうするんだ?」


 天の川を挟んで、一年に一度だけの再会。


 物語的には非常に感動的なものではあるが、もし自分がそんな立場になったら、到底我慢できそうにない。


 実際私も、有明との仲を父どころか周りの者ほとんど全てに反対されているという立場上、なかなか会えない恋の苦しみというものには、多少なりとも理解のあるほうだと自負しているけれど。


 たとえ父に、有明と会うのは年に一度にしろ! と命令されたとしたら、絶対に屈服しないと思う。


 邪魔するもの全てを追い払い、有明に会いに行くだろう。


 だから一年に一度しか会えないという現状に甘んじている恋人たちの心情が、この時の私には到底共感できなかった。


 「契ける ゆゑは知らねど 七夕の 年にひと夜ぞ なほもどかしき、か」


 無数の七夕の歌の中から、自分の気持ちに似たようなものを見つけて、口にしてみた。


 約束した理由は知らないけど、七夕の年に一夜の逢瀬というのは、やはりもどかしいものだ……と、右京太夫自身も別の歌で詠んでいる。


 「年に一度なんて耐えられない。それにもしも、次の年の七月七日が雨降りだったらどうするんだ。二年も三年も会えなくなるじゃないか」


 なおも不安そうなまなざしで私を見る有明に対し、そう言い放った。


 こんなにそばにいるのに、周りの状況が不安定なせいで有明をここまで心細くさせてしまっているのだろうか。


 「そうだ、今度の七夕、一緒に天の川を見よう」


 「天の川を?」


 「そう、星合の空を二人で見上げよう」


 七夕の夜を『建礼門院右京大夫集』に出て来る「星合の空」のような悲しい記憶ではなく、これから二人で歩んでいく幸せな思い出にしたくて、そう提案してみた。
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