暁のオイディプス
 もう寝ていると思われ姿は見えないが、父と正室・小見の方の間には他に何人か子がいる。


 母親が健在で、後々支えともなり得る兄弟が多くいる帰蝶に比べ。


 私にはすでに母は亡く、母を同じくする兄弟は一人もいない。


 幼いころからずっと独りぼっちで、孤独だったのだ……。


 ……本人は相当嫌がっていたようだが、最終的には父の野望の橋渡し役として帰蝶は翌春、尾張の実力者である織田信秀の嫡男・信長の正室として嫁いでいった。


 嫌な奴がいなくなって清々した。


 ただ織田信長は家臣も手を焼く「大うつけ(大馬鹿者)」として名をとどろかせており、その噂が本当ならば、争乱の尾張の中で生き残れないかもしれない。


 そうなれば帰蝶をわざわざ終わりまで嫁がせた意味がなくなり、せっかくの父の野望も水泡に帰すかもしれない。


 ただ、私にはちょっと気になることがあった。


 馬鹿と天才は紙一重、とよく言われている。


 信長がその馬鹿の方なら、私の将来に対し薬にも毒にもならないだろうけど。


 もしも逆ならば……。


 将来大いなる障壁になるかもしれないということだ。
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