花筏に沈む恋とぬいぐるみ



 自分の知らない父の姿。
 岡崎の父への思い。そして、自分に対する考え。

 人は一人では生きていけない。
 一人で生きていたとしても、心配してくれる人はいる。わかってくれる人はいるのだ。それを改めて感じる事出来た。自分にとってその一人が岡崎なのだろう。
 昔から見ていてくれた、そして今も助けようと手を差し伸べてくれる。

 涙が零れそうになったが、今泣いてはまた凛と雅に泣き虫、と笑われてしまいそうでグッと堪えた。


 「父の事を大切にしてくださって、ありがとうございます。私の好きな父を岡崎さんは知ってくれていた。それだけで私は嬉しいです」
 『ダメです、乙瀬さん』
 「え?」
 『私は乙瀬花さんに戻ってきていただきたいのですよ。戻ってきていただけますか?』
 「………はいっ。今まで以上に頑張らせていただきます」


 ここで断る理由などない。

 岡崎の気持ちを、花のために動いてくれた人たちに感謝の意を伝えるためにも、戻らなけらばいけない。
 強い決意で、返事をする。が、その気持ちは本当のものだというのに、スマホから聞こえた言葉は花を迷わせるものだった。


 『それはよかった。それでは、急なのですが、明日から出勤していただけますか。いろいろと話がしたいのです。開いたは幸いにも予約のお客様も少ないので時間が取れそうなのです』
 「あ、明日、ですか……」



< 114 / 147 >

この作品をシェア

pagetop