花筏に沈む恋とぬいぐるみ



 今日は雅の四十九日。
 近所の人たちにも彼は愛されていたのだろう。雅は大切に花を花瓶に入れて、しばらくの間眺めていた。死んだ自分へのお花を直接渡されてしまうのは、きっと複雑な気持ちだろう。けれど、雅の顔はとても嬉しそうで、きっと死後も気にかけてくれる人がいる事が幸せなのだろうな、と花は何となく思った。

 花もスターチスの花を一緒に見つめ、穏やかな朝はスタートした。


 今日が特別な日であっても、店は変わらずに開店する。
 雅が最後に店に立つ日。きっと、彼がそうしたいのだろう。

 午前中は最後の作業をしたが、それが終わった後は凛と花も一緒に店の中で過ごした。
 昼前に予約客が1名来店しただけで、今日の予定は終わりだった。けれど、凛は店にずっといて掃除をしたり、ソファに座って大きな窓から店先を眺めて過ごしていた。


 「あ、そうだ。花ちゃん、今日のおやつはプリンだよ!俺が昨日の夜に作ってたんだ」
 「え!?嬉しいー」
 「特製のアイスティーと一緒に持ってくるね」
 「私も手伝うよ」

 
 そう言って、台所に雅と一緒に向かう。フッと気になって後ろを振り向くと、凛はボーっとこちらを見つめていた。いや、花ではない雅の後ろ姿を見ていたのだろう。花が自分の方を見ているとわかると、フッと視線を逸らした。
 テディベアの表情はわからない。けれど、その雰囲気が花の心をざわつかせた。


 「俺のアイスティーはね、この2つの缶の茶葉を半分ずつブレンドするんだ。この棚にあるからね」
 「うん……」
 「ちょっとだけ甘くしたい時ははちみつがおすすめ。冬はホットにしてね」
 「うん」
 「……さ、甘い物を食べよう。自慢じゃないけど、めちゃくちゃ美味しいからね」
 「楽しみだなー」


< 117 / 147 >

この作品をシェア

pagetop