花筏に沈む恋とぬいぐるみ
エピローグ





   エピローグ




 初夏の香りが風に乗って、花を包む。
 生ぬるい夏らしい風。緑と水が乾く時の焼ける匂い。それでも、ビルがない丘の上は風が気持ちよく、花は思わず背伸びをした。


 「花!こっちだぞ」
 「あ、うん。今行くー!」


 持っていた花束を両手で抱え直して、花は急いで名前を呼んだ彼の元へと駆け出した。
 花束からはいつも店で香る、おなじみの花の香りに思わず笑みが零れる。


 「あんまり花束を振り回すなよ」
 「振り回してないよ。大事に扱ってます」
 「どうだか。……ここだ」


 いつものように冗談を言い合いながら着いた場所。
 そこは、雅が眠っているお墓の前だった。

 今日は店を開店する前に、お墓参りにやってきたのだ。早く行きたいと思っていたものの2人の時間がとれずに、早起きをして向かう事になったのだ。
 雅の墓は高台にある小さなお寺にあった。こじんまりとしているが、街が見下ろせてとても景色がよかった。
 花は、艶のある墓石に触れる。夏であってもそれは不思議とひんやりとしている。


 「雅さん、来たよ」
 「綺麗にしてやるか。少し前に来たけど、梅雨で大分汚れたな。花も痛んでる」
 「うん。綺麗な真っ白のスターチス持ってきたんだよ」



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