花筏に沈む恋とぬいぐるみ



 「今、そのクマ動きました?」
 「え?」

 
 そのクマというのは、花が川から救い上げた凛のテディベアだった。
 今は、ソファの分厚いタオルを弾き、そこに座っている。はずだった。先ほどまでは、確かに凛と並んで座っていたのだ。だが、今はというとそのテディベアは後ろに倒れて、まるで寝ているようだった。
 凛は食事をしていたはずなのに、クマにぶつかったりはしていない。と、なるとそのクマが自然に倒れた事になる。どうしてだろうか?と、不思議そうにそれをそれを見つめる。水を含んで、バランスが悪くなったのだろうか。


 「きっと眠くなったんじゃないかな。ほら、川に落ちてしまって溺れかけたわけだし」
 「………」
 「ちょっと寝かせておいてあげよう」
 「……凛さんは、ぬいぐるみで遊ぶのも好きなんですね」
 「え、ちょっと待って。別におままごととかしてるわけじゃないよ。作ったり服着せたりするのは好きだけど」
 「私、男女差別も大人だからという区別もしない人なので大丈夫で」
 「いや、絶対誤解してるよね?」
 「大丈夫」
 「大丈夫じゃないよ。………花ちゃんは、強いなー」


 苦笑しながら花を見つめる凛は、とても楽しそうだった。そんな彼を見ている自分も笑っている事に気が付いた。
 そこでハッとする。
 こんなにも人と話て自然と笑えたのはいつぶりだろうか。
 自分でも気づかないうちに楽しいと思ってしまっていた。


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