花筏に沈む恋とぬいぐるみ
突然しゃべり動き出したテディベアに驚き、花は思わずそれを手放してしまった。そのためテディベアは床に落ちてしまう。すると、テディベアはくぐもった声を上げて苦しそうにしていた。どうやら体を強打して痛んだらしく、ぶつけた部分を刺繍が入った手でさすりながら立ち上がった。
「っ……痛いな、もう少し大事に扱えよ。この体がぬいぐるみじゃなかったから大怪我をしてたぞ」
「なんで、クマがしゃべって……」
「この宝石のテディベアと大体一緒だろ。それに、生きてる動物にものり移ることがあるんだから、めずらしくもなんともないだろ」
「そういう問題じゃなくて!何で今まで動かないで黙ってたの!?
「おまえは恩人かもしれないけど、別に話す事じゃないだろ。自分の秘密を簡単に話す奴なんていないだろ」
「な、なんか口の悪いクマ………」
「なんだと?」
花が驚いている間につらつらと言葉を並べて捲し立ててくる魂付きのテディベア。どこの誰の魂が宿っているのかもわからない。年上なのか年下なのかもわからないが、花は思ったことがつい言葉に出てしまった。
驚きと可愛い姿からは想像も出来ない言葉の悪さから、我慢が出来なかったようだ。
案の定、クマは怒ってしまったようだが、凛が「まぁまぁ、2人とも落ち着いて」と何故か嬉しそうに微笑みながら花とクマのやり取りというケンカを止めた。
「凛さん、このテディベアも……まさか、四十九日の奇なんじゃ?……それに誰が……」
「俺はクマ様だ」
「………へ?」
「………俺もクマ様って呼んでるんだ。花ちゃんもそう呼んであげて」
凛は少し困った顔でそう言うだけだった。
花の質問には答える様子はない。要するに、聞いてほしくない事だったのだろう。
話題を変えられてしまっては、しつこく聞くことなど出来ない。