花筏に沈む恋とぬいぐるみ



 「このタオルだけお借りします。お邪魔しました」
 「えっ、もう帰るの?」
 「はい」
 「ちょ、ちょっと待って。俺の店のマークを知ってるって事は、この店に用事があったんじゃないの?」
 「もういいです………」
 「よくないよ。それに、そのクマのお礼もしてないし」
 「捨てたんですよね?」
 「す、捨てた?まさか、そんな事はしないよ」
 「でも、あなたが故意に落としたのを見てました」
 「あー、故意じゃないよ?」
 「なんですか、その嘘っぽい疑問形は……」


 花はため息をついた後に、持っていた不格好なクマのぬいぐるみを男に向けて渡した。
 水分を吸ってしまったのか、随分重くなっていたが、それがかえって本物ように思えて不思議な感覚を覚える。自分が川に飛び込んで助けただけのクマのぬいぐるみ。たったそれだけなのに、男に返しがたくなったのだ。
 男は「ありがとう。綺麗にしてあげなきゃね」と、クマを見て男がとても愛おしそうに微笑むのを見ると、大切にしてたのがわかる。
 手からクマのぬいぐるみの重みが消える。それが妙に悲しくてジッと男の手に戻ったぬいぐるみを見つめてしまう。


 「このぬいぐるみ、気に入った?」
 「え、そ、そんな事は……」
 「そうだ、じゃあ、お礼に俺がぬいぐるみを作るよ。どうかな?」
 「いらないです」
 「えー」


 即、断りの言葉を伝えると男は残念そうに肩を落とす。
 きっと自分よりだいぶ年上であろう男が、ふくれっ面を見せながら不服そうにしている姿は妙に幼く見える。見た目はクールな印象なだけに、やはりギャップがある。


 「このぬいぐるみは特別だから、あげる事が出来ないんだよ」
 「特別なのに、捨てたんですか?」
 「だから、捨ててないんだって!」
 「じゃあ、どうして」
 「いろいろ、あってね。だから、代わりのクマを作らせて欲しいんだ。このクマの恩人だから」


 ぬいぐるみを助けた恩人だなんて、変な人だ。
 だが、何かお礼をしたいと言うのならば話は早い。と思い、花が口を開こうとしたが、それより先に男がとても楽しそうに話しを始める。



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