販売員だって恋します
ごほっ!!

「久信さん……。それは最低って言われます」
「そうですか?」
本人はケロリとして、由佳に笑顔を向ける。

この笑顔……が曲者なんだろうなあ……。
整った顔立ち。
白皙、というのだろうか、白くてひんやりとした彼のイメージは、確かに男性が苦手な女性にも好かれそうだ。

「悪い人ですね。」
そう言った由佳に大藤は面白そうな顔で笑う。

そうなのだ。
大藤は、たまにこんな顔をする。
作られた表情ではないそれに、由佳は時折どきんとするから、その表情はやめてほしい。

「いいですね、それ。そう悪い人なんですよ」
「あ、私は……」
「楠田由佳さん、ですね。ブレアの店員さん。由佳さんと呼んでいいですか?」
「は……い。」

なるほど。
由佳のこともすでに確認済みらしい。

男性から名前で呼ばれることなどない由佳だ。

急にそんな風に名前で呼ばれて、その響きに正直息が止まりそうになったけれど、すんなり頷くことで、その場を流すことに成功した。

本気にはならなくて、交際に興味がなくて、悪くて身体だけの関係も厭わない人。
雰囲気がいいから、どきっとはするけどそれだけだ。

この人に本気になってはいけない。
この人は本気になることはない。
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