販売員だって恋します
「理由?」
「家を出たのは……好きな人が出来たからなんです」

好きな人が出来ただけで、家を出た……?
ふわりと頬を赤くするその様子は、本当に由佳に似ている。

「先程大藤さんは失うものははあるのか、と言いましたよね。失いたくないものはあります。彼です。」

「彼……」
絋はこくん、と頷く。
大藤は納得した。

──それで、家を出たのか……。

大店の子息の恋人が……男性なのは問題がある、と。
絋はそう思ったのだ。

それでも欲しくて、家を捨てたのか…。
どれほどの葛藤があったのだろうか、と思う。

「絋さん、俺は好きですよ、そういうの。」
最後にそう一言だけ言って、口元に笑みだけを残し、絋に背を向けた。

出来ることは、全てやった。
あとは、それぞれの判断に任せるしかない。
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