販売員だって恋します
それは口に出して『助ける』と言ったわけではないが、由佳がくれたものを思ったら、それをしたいと大藤は思うのだ。

「俺は……判断は絋さんに委ねます。後悔されない道を選んでください。けど、家出までしたのですから、なんでも出来るんじゃないですか?なにか、失うものはありますか?よく、考えて下さい」

いろいろな思惑があればこそ、つい熱心に絋に向かって大藤は語りかけてしまった。

もちろん判断は絋に委ねる。
委ねるのだが……。
出来ることはすべて、するつもりだった。

「当日、お迎えに来ます。『くすだ』の敷居は踏まない。そう決意していらっしゃっても構いません。けど、何もしないまま、もしかしたら、全てが無くなっている可能性があることを忘れないで下さい」

初めて会ったのだし、もしかしたら無礼だと思われてもいい。

伝えたい事は全て伝えるつもりだったからだ。
大藤だって後悔したくないのだ。

「大藤さん!」
泣きそうな顔は由佳に似ていて、思わず触れそうになる。

「はい」
「あのっ……理由が、あるんです」
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