販売員だって恋します
ほらっと子供は料理人に、プレゼントでもらったというセラミック包丁を見せた。
もちろん抜き身ではなく、ケースに入っている。

なるほどな、と思う。
子供でも取り扱いはできるけれど、上手く扱えば、それなりにきちんと使える物だ。

「飾り切り、しますか?」
「うん」
頭を撫でて子供にきゅうりを渡すと、要は夢中になって、なにやら切っている。

小さいけれど、飾り切りが何であるのかは分かっているので、そのままにさせておいた。
それを後ろからひょいと覗いた少女がいる。

「なにしてるの?」
突然の事なのに、要は動揺もせずに飾り切りに集中していた。

「飾り切りって言うんだよ」
「かざ……り……?」
「そう、これきゅうりなんだ」

要の手元できゅうりが魚になっていくのを、女の子は不思議そうな目で見ている。

「お魚みたい」
「うん。きゅうりでお魚を作ってるんだよ」
「すごいね!」

「うん。……えっと、君は……?」
そこで、要は首を傾げた。
綺麗な振袖の子だ。
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