販売員だって恋します
由佳の顔を覗き込んで、少しだけ膨れた様な表情をする神崎ははこの前までは見られなかったものだ。

「え……だって、それは。」
「そんな風に呼んでくれる人はいないから。」

先日の『神崎家の子息と見られてしまって、心を許せる人が少ない』なんて話を聞いたら、この子犬のような表情には逆らえない。

「えっと、靖幸さん、でもいい?」
「もちろん!」
神崎はにっと笑う。

ゆーちゃん、それってもう幼馴染みで逃げられる呼び方じゃないって、逆に分かっている?

神崎が案内したのは、自社のホテルの最上階のランチだった。
個室ではないけれど、少し物陰になる場所のテーブルをチャージしてある。

「どうぞ。」
椅子は、神崎が手ずから引いた。
「ありがとう。」

「ここからの景色を見ながらってのも、いいかなと思って。お料理はお任せでいい?」
「うん。すごく素敵ね。」

媚びるでもなく、取り繕うでもないその自然な褒め方が神崎はいいなと思うのだ。
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