憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
「随分と王妃のお仕事も慣れてきたみたいで安心したわ」
そう言ってにこやかに笑って私の目の前でお茶を飲むのは、王太后陛下…つまりユーリ陛下とジェイドのお母上だ。そして、私の義母でもある。
結婚の行事が終わり少し落ち着いてきた頃合いと言うこともあり、今日は私1人でお茶に招かれているのだ。
もちろん私と彼女の2人きりだ。
陛下と同じ金の髪は、いくつになっても輝きを失わず、白い肌とピンク色の頬は艶やかで、とても成人した子供を3人も持つ母には見えない。
「はい。おかげさまにてつつがなく」
にこやかに答えれば、お義母様は満足そうに微笑んだ。
「そうでしょうとも、貴方は昔から賢い子だったものね。だからこそ、ユーリの伴侶が貴方で良かったと私は思っているのよ?」
唐突にそうした話を振られて、もとより覚悟をして出向いてきた私は、カップをソーサーに戻した。その様子を見とめたお義母様が表情を遽に曇らせた。
「私が不甲斐なかったばかりに、子供達だけでなく貴方にまで重荷を背負わせてしまうのね。本当にごめんなさい。悪いのは私たち親なの。だからあの子達を責めないでやってね」
やはりその事だったのか。こうして1人で呼ばれた上人払いをされているからには、その類の話であろうとは予想していた
「とんでもないです。お2人から事情を聞いて全て承知しております。国内の情勢と均衡を保つためにはやむを得ない状況だったと理解しております」
慌てて首を振る。多分私がお義母様の立場でも同じことを考えたと思う。それほど、この国の政治派閥の均衡は微妙なのだ。
私の言葉にお義母様は少しだけほっとしたように口元を緩めた。
「貴方にそう言ってもらえると、少しだけ肩の荷が下りたような気がするわ。ありがとう。同じ女の身として、貴方の心情も心配だったの。ほら、貴方はユーリを心から愛して嫁いでくれたでしょう?」
お義母様の言葉に、私の顔に一気に血が集まってくるのを感じた。
実のところそれを言われるのが今一番恥ずかしい。
「好きな人に嫁げたと思ったら、その弟と子供を作りなさいなんて、そんなひどい話ないわ。貴方の気持ちを踏みにじって、他の好きでもない男との子作りを強要するのは、本当に心苦しいの。それが最初から政略結婚と割り切っている人だったらこんなに心は痛まないのだけれど」
そう言われてしまっては、私はどんな反応をしたらいいのやら分からなくなってしまう。
だってお義母様の言う、その好きでもない男も紛れもない彼女の息子なのだ。
とりあえず困ったような笑みを浮かべてごまかすしかない。
実の母からなかなかひどい言われようなジェイドがすこし可哀想になってきた。
だけど、お義母様の言い様は、私にとっては大袈裟な気もした。
確かに、ユーリ様が女性で本当の夫になり得ないのはショックだった。だけど、その代わりに好きでもない男と寝る…と言う考え方は今まで一度も感じていなかった。
あれ、不思議ね。
「だからね、私は反対したのよ?だけどあの子達…特にジェイドの希望が強くて…」
「…え?」
自分の思考の中に囚われているうちにもお義母様の話は続いていたらしい。なんとなく聞き流していた話の内容になんかすごい情報が入っていた気がして、思わず間抜けな声を上げてしまった。
「そんな貴女に私の口からこんな事を言っていいものなのかとても悩んだのだけど」
そうお義母様が前おいて、ユーリ様によく似た美しいお顔を悩まし気に曇らせた。一度目を伏せて大きく息を吐いてからしっかりと私を見た彼女は、意を決したように口を開いた。
「あなたの気持ちの整理をつけてからでいいのと言えたらどんなに良いか…でもそうも言ってられないの、許して頂戴ね。単刀直入に言えば、1年でまずは妊娠しなさい」
前置きから一気に言われた言葉に、私は一瞬お義母様の言葉の意味が正確に理解できなかった。
「えっと…」
回らない頭で何とか言葉を紡ごうとするけれど、残念ながらどう反応すべきなのかすら分からない。
「突然そんなことを言われても驚くわよね。」
私の困惑を想定内だとでも言うようにお義母様は頷く。
「あなたとユーリの結婚が決まってから、革新派の一部からは穏健派から王妃が選ばれた事に不満が出ているのは知っているでしょう?」
そう聞かれて私は頷く。
実際それは私の耳にも聞こえてきている話である。
先代の王妃…要は今目の前にいるお義母様のご実家が穏健派である。そうであるなら次代…要はユーリ様の娶る王妃は革新派であるはずだ、それが平等というものではないか!といった主張が革新派の中でも声高に叫ばれていたのである。
実際に王妃候補で肩を並べた令嬢たちの中には革新派派閥に所属する家のご令嬢達もいたので、その微妙なバランスの鬩ぎ合いは私自身も肌で感じていた。
そして結局のところ、私自身の評価が高かったことと、夫となるユーリ様と相思相愛であった事が決め手となり穏健派派閥の家出身の私が選ばれたのだ。
同じ天秤にはかけたけれど、より資質の高い王妃を選んだ…それもある意味平等だということで落としどころを付けたらしいのだが、それでも不満が消えることはない。
「水面下では、ユーリに革新派からも公妃を娶るようにという打診が来ているのよ」
「え?もうですか?」
お義母様の言葉に私は目をむく。いずれはと思っていたけれど、まさかこんなに早いなんて。
「私の時もそうだったのよ。何とか押し留めて、1年だったわ」
「1年…ですか?」
ごくりと唾を飲み込む。なんとなく話が見えてきた。
お義母様は神妙にうなずいて一度目を伏せる。
「1年経って、王妃に懐妊の兆しがないとなると、さすがに公妃をとることを回避するのは難しくなるの。私がその例だったわ。結婚から1年経っても懐妊の兆しがなく、結局革新派から公妃を取ることが決まってしまってから、ユーリを懐妊したのだけど、そうなってしまってからでは遅いの、だってユーリは…」
そこまで言って口をつぐんだお義母様の言いたい事はよくわかった。
私の場合はもっと深刻なのだ、ユーリ様が公妃を娶ることになった時点で、国の崩壊が始まると言っても過言ではない。何が何でも、妊娠しなければならない、という事なのだ。リミットはすでにあと11か月になろうとしている。
「あの子たちは、あなたに負担をかけないようにと思ってきっと言わないけれど、それが現実なの。お願いアルマ!あの子達のこれまでの犠牲を無駄にはして欲しくないの。なるべく早くジェイドを受け入れてあげて?」
縋るような眼で見つめられて、私は言葉を失った。
そう言ってにこやかに笑って私の目の前でお茶を飲むのは、王太后陛下…つまりユーリ陛下とジェイドのお母上だ。そして、私の義母でもある。
結婚の行事が終わり少し落ち着いてきた頃合いと言うこともあり、今日は私1人でお茶に招かれているのだ。
もちろん私と彼女の2人きりだ。
陛下と同じ金の髪は、いくつになっても輝きを失わず、白い肌とピンク色の頬は艶やかで、とても成人した子供を3人も持つ母には見えない。
「はい。おかげさまにてつつがなく」
にこやかに答えれば、お義母様は満足そうに微笑んだ。
「そうでしょうとも、貴方は昔から賢い子だったものね。だからこそ、ユーリの伴侶が貴方で良かったと私は思っているのよ?」
唐突にそうした話を振られて、もとより覚悟をして出向いてきた私は、カップをソーサーに戻した。その様子を見とめたお義母様が表情を遽に曇らせた。
「私が不甲斐なかったばかりに、子供達だけでなく貴方にまで重荷を背負わせてしまうのね。本当にごめんなさい。悪いのは私たち親なの。だからあの子達を責めないでやってね」
やはりその事だったのか。こうして1人で呼ばれた上人払いをされているからには、その類の話であろうとは予想していた
「とんでもないです。お2人から事情を聞いて全て承知しております。国内の情勢と均衡を保つためにはやむを得ない状況だったと理解しております」
慌てて首を振る。多分私がお義母様の立場でも同じことを考えたと思う。それほど、この国の政治派閥の均衡は微妙なのだ。
私の言葉にお義母様は少しだけほっとしたように口元を緩めた。
「貴方にそう言ってもらえると、少しだけ肩の荷が下りたような気がするわ。ありがとう。同じ女の身として、貴方の心情も心配だったの。ほら、貴方はユーリを心から愛して嫁いでくれたでしょう?」
お義母様の言葉に、私の顔に一気に血が集まってくるのを感じた。
実のところそれを言われるのが今一番恥ずかしい。
「好きな人に嫁げたと思ったら、その弟と子供を作りなさいなんて、そんなひどい話ないわ。貴方の気持ちを踏みにじって、他の好きでもない男との子作りを強要するのは、本当に心苦しいの。それが最初から政略結婚と割り切っている人だったらこんなに心は痛まないのだけれど」
そう言われてしまっては、私はどんな反応をしたらいいのやら分からなくなってしまう。
だってお義母様の言う、その好きでもない男も紛れもない彼女の息子なのだ。
とりあえず困ったような笑みを浮かべてごまかすしかない。
実の母からなかなかひどい言われようなジェイドがすこし可哀想になってきた。
だけど、お義母様の言い様は、私にとっては大袈裟な気もした。
確かに、ユーリ様が女性で本当の夫になり得ないのはショックだった。だけど、その代わりに好きでもない男と寝る…と言う考え方は今まで一度も感じていなかった。
あれ、不思議ね。
「だからね、私は反対したのよ?だけどあの子達…特にジェイドの希望が強くて…」
「…え?」
自分の思考の中に囚われているうちにもお義母様の話は続いていたらしい。なんとなく聞き流していた話の内容になんかすごい情報が入っていた気がして、思わず間抜けな声を上げてしまった。
「そんな貴女に私の口からこんな事を言っていいものなのかとても悩んだのだけど」
そうお義母様が前おいて、ユーリ様によく似た美しいお顔を悩まし気に曇らせた。一度目を伏せて大きく息を吐いてからしっかりと私を見た彼女は、意を決したように口を開いた。
「あなたの気持ちの整理をつけてからでいいのと言えたらどんなに良いか…でもそうも言ってられないの、許して頂戴ね。単刀直入に言えば、1年でまずは妊娠しなさい」
前置きから一気に言われた言葉に、私は一瞬お義母様の言葉の意味が正確に理解できなかった。
「えっと…」
回らない頭で何とか言葉を紡ごうとするけれど、残念ながらどう反応すべきなのかすら分からない。
「突然そんなことを言われても驚くわよね。」
私の困惑を想定内だとでも言うようにお義母様は頷く。
「あなたとユーリの結婚が決まってから、革新派の一部からは穏健派から王妃が選ばれた事に不満が出ているのは知っているでしょう?」
そう聞かれて私は頷く。
実際それは私の耳にも聞こえてきている話である。
先代の王妃…要は今目の前にいるお義母様のご実家が穏健派である。そうであるなら次代…要はユーリ様の娶る王妃は革新派であるはずだ、それが平等というものではないか!といった主張が革新派の中でも声高に叫ばれていたのである。
実際に王妃候補で肩を並べた令嬢たちの中には革新派派閥に所属する家のご令嬢達もいたので、その微妙なバランスの鬩ぎ合いは私自身も肌で感じていた。
そして結局のところ、私自身の評価が高かったことと、夫となるユーリ様と相思相愛であった事が決め手となり穏健派派閥の家出身の私が選ばれたのだ。
同じ天秤にはかけたけれど、より資質の高い王妃を選んだ…それもある意味平等だということで落としどころを付けたらしいのだが、それでも不満が消えることはない。
「水面下では、ユーリに革新派からも公妃を娶るようにという打診が来ているのよ」
「え?もうですか?」
お義母様の言葉に私は目をむく。いずれはと思っていたけれど、まさかこんなに早いなんて。
「私の時もそうだったのよ。何とか押し留めて、1年だったわ」
「1年…ですか?」
ごくりと唾を飲み込む。なんとなく話が見えてきた。
お義母様は神妙にうなずいて一度目を伏せる。
「1年経って、王妃に懐妊の兆しがないとなると、さすがに公妃をとることを回避するのは難しくなるの。私がその例だったわ。結婚から1年経っても懐妊の兆しがなく、結局革新派から公妃を取ることが決まってしまってから、ユーリを懐妊したのだけど、そうなってしまってからでは遅いの、だってユーリは…」
そこまで言って口をつぐんだお義母様の言いたい事はよくわかった。
私の場合はもっと深刻なのだ、ユーリ様が公妃を娶ることになった時点で、国の崩壊が始まると言っても過言ではない。何が何でも、妊娠しなければならない、という事なのだ。リミットはすでにあと11か月になろうとしている。
「あの子たちは、あなたに負担をかけないようにと思ってきっと言わないけれど、それが現実なの。お願いアルマ!あの子達のこれまでの犠牲を無駄にはして欲しくないの。なるべく早くジェイドを受け入れてあげて?」
縋るような眼で見つめられて、私は言葉を失った。