マリファナの樹
「惜しいアーティストを失くしました」
とあるイベントホールに、一つの作品がある。
白の大理石彫刻と、その周囲を取り巻く蔓、真っ直ぐ上に伸び、高く聳える木彫り。その真ん中に、満開に咲いた花が佇んでいる。要所に散りばめられたビビッドと、かと思えば角度によって白と黒で統一された生命力に満ちた作品は、オブジェのようにも、世界樹のようにも見えた。
声をかけてきたのは桐子の顔見知りなのか、恐らく事前にこの遺作をホールに展示する話をつけてくれた人間だ。柄にもなく普段着ないスーツを着て、髪なんかも整えてきたからやりにくい。そんな俺を見て、芸術家なのか、髪が長くどこかチャラついた見た目のブロンドの髪の男は、「人気だったんですよ」と続ける。
「彼女の作品ね、こう、禍々しさがあるでしょう。綺麗じゃないんですよ、いつも。なんだか泥臭くて」
「凡人には到底わからない感性です」
「だから驚いたんです、最期にこんな綺麗なもの作れるんだって。もっとこき使ってオファーしてやればよかった」
軽く会釈して去っていく男を見送って、イベントホールの真ん中にでかでかと展示された桐子の遺作を眺める。
そこでふと、あの日桐子が俺に言った言葉の続きを思い出した。
『自分が作品になる?』
『そう。私が手がけているのは人間そのものだよ。もう私は保たない。数日後にはこの芽が開き花を咲かせるだろう。そうしたら、私を作品の真ん中に弔ってほしいんだ。
日頃痣を見て怖気ていた大衆が私を見て綺麗だと宣う、その様は異様だね、目の前にあるのは人間の死骸なのだから』
『最期まで悪趣味だな』
『私の死を以て作品は完成するんだよ。これは私が花餌に罹患した瞬間から決めていたプロジェクトだ。
青磁、きみにはそれをその眼に収める義務がある。
だから死なないで。
私のために生きろとは言わない、その皮肉を見届けてくれればいい。
そしていつか私の元に来た時に、
その人間の愚かさをたんと話してはくれないか
死骸に群がり綺麗だという人間の様は
さぞ滑稽だと思わない?』
すごい、素晴らしい、と歓喜に震える周囲からしきりにフラッシュと、シャッター音がする。これは遺影だ。そして遺骸そのものだ。ざまあみろ。お前らが忌み嫌った病魔は、今目の前で満開の花を咲かせているぞ。
桐子。愚かな人間達がのさばるろくでもないこの世界で、お前の皮肉は叶ったよ。
「…綺麗だ」