気怠いお隣さんと恋始めます!
このわかりにくい男のほんの少しの違いをも見つけられてしまう私は、残念ながら彼のお隣さん以外の何者でもない。

この男がゆるゆる纏う空気は、私にとってとても心地良い。

だから私はいつも、カラカラ、ベランダの扉が開いてその僅か数秒後にベランダを隔てる1枚の壁から聞こえるコンコン、という音を聞いてここに足を運んでしまうのだろう。
いや、ここに来てしまう理由はそれだけではないのだけど。

はぁー。吐き出した白い息が、空に上って消えていく。
今日も綺麗な満月。

ここで会うのは大体夜の10時前後で、この関係が始まってからもうすぐ1年が経とうとしていた。

1年前のあの日も、今日みたいな綺麗な満月が空から哀れな私を見下ろしていたっけーーー。

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「小夏、ごめん、他に好きな人が出来た。だから別れて欲しい」

今からちょうど1年程前。
大学1年の冬からかれこれ5年近く付き合っていた陽平にそんなことを言われたのは、社会人としての自分にようやく慣れて来た1年目の冬、12月のことだった。
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