涙の涸れる日
 佑真は契約したばかりのマンションを解約し、紗耶との思い出の家具家電も処分した。

 文字通りカバンひとつで東京を離れた。

 暫く実家に身を寄せる。

 両親には、散々怒られた。

「あんたがそこまでバカだとは思わなかった」
母親に泣かれた。
「あんな良いお嬢さんに……。申し訳なくて恥ずかしくて謝罪にも行けないわ」

「ごめん。母さん……」

「それで、これからどうするつもりだ?」
父親に聞かれた。

「兄貴の所に行こうと思う」

「翔真には言ったのか?」

「うん。仕事ならいくらでも有るって」

「そうか。女で揉めて北海道からも追い出されるなよ」

「…………」
何も言い返せない……。
バカな息子を許してはくれないだろう……。

 そして佑真は北海道へと旅立った。








 その日、テレビは航空機が消えたとニュースで流した。


 羽田発〜新千歳空港行き、509便が消息不明だと。

 懸命な捜索が続けられ機体が見付かったのは、四日後。

  
 飛行経路から大きく外れた山中で、烈しく損傷した機体が確認出来たと伝えた。


 生存が確認出来たのは、乗員乗客124名中わずか、五十四名。

 その中に高梨佑真の名前があった。


 自衛隊のヘリで病院に搬送されたが、全身の骨折は十四か所。

 手術を繰り返しても立って歩くどころか、車椅子に座ることも難しいだろうと医師から説明があった。

 全身の痛みは想像を絶するもので……。
 顔面は麻痺し話す事すら難しいと言われた。

 そんな状態でも脳に損傷は無く、意識だけはある。

 佑真はベッドから起き上がる事すら出来ない。

 こんな体になったのは自分の今迄の行いが招いた結果だと悟った。




 最愛の妻だった紗耶を傷付けた報いだと……。

 純真に愛してくれた紗耶の心をどれだけ踏みにじったのかを……。

 あんなに健気に尽くしてくれた紗耶を裏切った天罰だと……。

 謝罪すらして来なかった。
 人として最低だったと今になってようやく理解出来る。

 懺悔と体の痛みに涙を流す佑真を目の前にして……。

 母親は泣き崩れていた。どんなに馬鹿な息子でも自分がお腹を痛めて産んだ大事な息子……。

 父親と兄はただ呆然と見守る事しか出来なかった。


 あのイケメンでモテモテだった佑真の面影の欠片も無い今の姿。


 生涯、家族に世話になり迷惑を掛けて生きていかなければならない自分自身に絶望していた。


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