涙の涸れる日
 暫く走ってパーキングエリアに車を入れる。

「ここがスタジオなの?」

「そうよ。今、別のファッション誌の撮影してるの。終わったらカメラテストしてもらう事になってる」

「分かった」

「さぁ、行くわよ。紗耶」


 桜子は当然慣れているんだろう。どんどん歩いて行く。
「おはようございます」
午後だというのに、この世界の定番の挨拶。

「さぁ、入るわよ」
桜子がドアを開ける。

 スタジオの中は音楽が流れて、シャッターを切る音が聞こえる。

 メイクアップアーティスト、スタイリストらしきお洒落な人達が撮影を見守る。
 
 独特な雰囲気に呑まれそうだ。

「はい。お疲れさま」
男の人の声が聞こえた。おそらくカメラマン。

「お疲れさまです」
「ありがとうございました」
モデルさんたちが次々に挨拶してスタジオから出て行く。



「武田さん。おはようございます」
桜子が声を掛ける。

「あぁ、蓼科さん、おはよう」

「連れて来ましたよ。家の新人モデル。紗耶、こっちに来て」

「はい」
桜子の隣まで歩く。

「この子?」

「はい。カメラテストお願いします」

「君、こっちに来て」
アシスタントらしき若い男の人に言われて

「はい」
言われた所まで歩く。

「じゃあ、始めようか。自然にしてて良いからね」

 自然ってどんなだっけ?
 ライトが眩しいな、なんて思っていたら

「右向いて。顔を上げて。目線はこっちね。うん。いいね。じゃあ正面向いて。顔はそのまま目線だけ下げて。じゃあ後ろ向きで上半身だけ左向きで、こっち向いて。はい。オーケイ」

「お疲れさまです」

「桜子ちゃん。彼女どこで見付けてきたの?」

「内緒です」

「亀井編集長その辺に居なかった?」

「さぁ、会ってませんね」

「写真見て決めてもらうよ」

「分かりました。お疲れさまです。紗耶行くよ」

「ありがとうございました。失礼します」

 スタジオのドアを開けて外に出る。

「ねぇ、あれで終わりなの?」

「そうよ。後は亀井編集長の一存で決まるわ。紗耶、そこでお茶でもする?」

「そういえば喉がカラカラだった」

 隣のカフェで桜子とお茶。

「アイスミントティー」
「アイスアップルティーで」

「どうだった?」

「どうって言われても……」

「直ぐに慣れるわ」

「まだ決まってないのに……」

「ううん。武田さんノリ気だったもの」

「どの辺が?」

「あっ。ごめん。電話」
そう言って桜子は出て行った。

 紅茶のメニューが多いカフェだな、なんてのんびり考えてたら

「紗耶。スタジオに戻るわよ」

「えっ?」


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