涙の涸れる日
 元々、来る者拒まず去る者追わずで、軽い恋愛とも呼べない、その場限りの付き合いしかして来なかった。

 彼女は遊びで付き合って良いような女じゃない。
 聞けば、所謂良いとこのお嬢さんらしく、それから俺が卒業する迄、彼女に近付く事すらなかった。

 偶に遠くで見掛ける事くらいはあったが、天使のような彼女の笑顔を見るだけで心が洗われるような気がしていた。

 俺は彼女に恋をしていたんだと思う。

 遊びの女達とは手を切った。

 ナンパしに大学に来てるような奴らとも疎遠になって、俺は髪も黒く戻してピアスも外し真面目に就活も始めた。

 最後の最後で、大手化粧品会社に就職が決まり社会人としての生活が始まる。

 実家は隣県で大学生になってから一人暮らしをしていたアパートからも通勤の便が良くそのまま住む事にした。

 父親は中堅飲料会社で部長をしている。母親は専業主婦。動物好きな兄は獣医になり北海道に居る。

 俺の就職が決まった事を家族は喜んでくれた。
 ここから俺の本当の人生が始まる。そう思う。

 何の関わりもなかったけれど、本多紗耶が俺の人生を変えてくれたと思っている。

 恋する気持ちを教えてくれたんだと思う。
 彼女には感謝しかない。


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