涙の涸れる日

大切な紗耶

 紗耶を初めて、俺のマンションに連れて来た。

 大学生になった時から一人暮らしをしているマンションに。

 この部屋に女の子を招き入れた事は一度もない。
 短いお付き合いしかしない子を自分のテリトリーに入れる気はなかった。

 彼女面されて、料理されたり、マグカップや歯ブラシなど置かれたら迷惑だ。

 女の子達が鉢合わせでもしたら最悪だ。



 そんな俺が……。

「紗耶。その辺に座ってて」

 彼女は、水色のパンプスをキチンと揃えてから、二人で座れば窮屈なソファーに座った。

 こういう所に育ちの良さが表れる。



 この部屋に女の子が居る事が新鮮で……。

 それが紗耶だという事に喩えようがない程の幸福感に浸っていた。

 紗耶の好きな紅茶を入れてテーブルに運ぶ。

「はい。アールグレイだけど」

「ありがとう。紅茶の名前、覚えたのね」
嬉しそうな紗耶に俺も笑顔になる。
「佑真も紅茶で良いの?」

「きょうは紅茶だよ。紗耶に教えてもらって覚えた。ダージリンもあるよ」
紗耶の隣に座る。

「えっ? 本当に?」
笑顔の紗耶が可愛くて、ついオデコにキスをした。

 恥ずかしそうな紗耶に、オデコだけじゃ足りなくなる……。

 狭いスペースに、ピッタリくっついて座っているのに、紗耶の肩を抱き寄せて、唇にもキスを落とす……。

 啄むように何度も……。

 なけなしの理性を総動員して、キスだけで我慢する。
 この俺の悲愴なまでの努力を紗耶は知っているのだろうか?


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