涙の涸れる日

傷ついた心

 紗耶が俺のマンションに来てから一週間が経った。

 まだあまり食欲もないようだが、俺の為に夕食を作ってくれる。

 きっと何かしていないと辛い事ばかり考えてしまうから忘れるために無理をしているようにしか見えない。

 ここに来てから毎晩一度だけ紗耶の携帯が鳴る。
 紗耶はそのディスプレイを見詰めているが出る気はなさそうだ。音が鳴り止む迄ただ見ているだけ……。

 あんな奴、着信拒否してやれば良いのにと俺は思っているが……。

 シャワーを浴びてソファーに座り缶ビールを開ける。

 紗耶もミネラルウォーターを飲み座っている。

 テレビを消して思い切って聞いてみた。

「紗耶」

「うん。なに?」

「少しは話せるか? あの日何があったのか」

「…………」

「まだ無理なら、もう少し待っても……」

「あの日、知らない携帯番号から電話があって……」

「何か言われたのか?」

「…………。知らない女の人と……佑真が」

「その女に何か言われたのか?」

「ううん。二人が話してるのが聞こえたの……」

「何を話してたんだ?」

「…………。佑真がシャワー浴びて……」

「…………?」

「その女の人を……」 
紗耶は泣き出した。

「分かった。紗耶、もういい」
 
 俺はあまりの出来事に殺意さえ覚えた。

 浮気の実況中継を紗耶に聞かせたって事か?
 
 大事な妹に何してくれてるんだ。
 
 あんな男、社会から抹殺してやる。
 勿論その女もただでは済まさない。


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