男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 彼の言葉や態度は、長い髪が気に入らないという理由だけでは説明がつかないほど敵愾心が前面だった。しかし、戸惑いを覚えたのはほんの一瞬。セリウスの替わりにここに来ると決めたのは、生半可な決意じゃない。女であることを捨て、宮廷に骨を埋める覚悟でやって来たのだ。
 謁見室を見回すと、居並ぶ臣下らの中に登城の際に既に挨拶を済ませていた近衛長官の姿を見つけた。
「ダボット様、短刀をお貸しいただけますか」
 すぐに歩み寄っていき、彼の腰に下がっていた短刀を借り受ける。
 借り物の刀を右手で握り、結わえた髪束を左手で掴んで根元のあたりに躊躇なく振り下ろす。
 髪を断ち切る手応えを感じるのとほぼ同時に、短くなった毛先が耳や頬のあたりをサラサラと流れていく。そうして長かった髪が全て切断されると、頭皮から離れた結わえ髪はだらんと左手に垂れ下がった。
 たかが髪……、しかし左手には実際の重量以上のずっしりとした重みを感じた。
 ……あぁ。だけどこれで、私は女の性に一切の未練なくサイラス様にお仕えできる。
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