男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 ゆっくりと快感の波が遠ざかっていくと、心地よくも抗えぬ虚脱感に全身が包まれる。瞼も意思とは無関係に、とろんと重くなってくる。
「眠いのか?」
「い、いえ……」
 このまま彼の寝台で眠るわけにはいかないと怠い体を起こそうとしたら、他ならぬ彼の腕にグッと掻き抱かれ、そのまま腕の中にとどめられてしまう。
 温かな揺り篭に揺蕩っているかのような圧倒的な安心感に包まれて、眠りの世界からの誘いにこれ以上抗うことは困難だった。
「――」
 落ちゆく意識の片隅でサイラス様が何事か呟いたような気もしたが、既にうつつの世界から遠ざかっていた私の耳には、意味あるものとして結ばれなかった。
 ……ただ閉じきる直前の目が、それを口にする彼の蕩けるように優しいアメジストの瞳を映した。まるで自分が、彼の大切な存在にでもなったかのように錯覚しそうになった。
 もちろん、これが契約によって成り立つ情事で、そんなことがあり得ないのは百も承知だ。けれど、蕩けるような彼の眼差しに見送られ、私は契約の情事の後とは思えぬほど幸福な気分で眠りの世界へと旅立っていった――。
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