愛して欲しいなんて言わない!
「小西さん、実験の内容
書かないの?」

白衣を着ている西九条に
声をかけられた

まわりにいるクラスメートの視線が
私の顔に集まった

ノートを広げているものの
西九条が書いた黒板の文字を
私は書きうつしてなかった

どこを探しても
筆箱はなくて

事情を知っている小林に借りようと
思ったけれど
実験室の班は離れていて
声がかけられなかった

近くにいるクラスメートに借りれば
いいのかもしれないけれど

私には「貸して」という言葉が
出せなかった

「あ…えっと
すみません」

私は下を向いた

西九条の視線が
私の筆記具に動いた

黒い実験台の上には
教科書と西九条が配布した実験内容
そして前回の実験の考察のページで
書くのが止まっているノートだけだった

「筆箱は?」

「忘れたみたいで…」

「教室に?」

「たぶん」

「たぶん?」

西九条は教壇に向かった

私は恥ずかしくて顔をあげられない
私の不注意で筆箱を忘れたなら
堂々としていたかもしれない

でもどこを探してもない筆箱

誰かに隠されたのか
奪われたのか

そう思うと悔しかった

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