祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
「……」
 何か聞こえた気がした。ナーザの声だ。心臓だ、と言っていた。
「心臓を狙え、シルフィス!」
 今度は、はっきりと聞こえた。そして、
「伏せて!」
 シルフィスは地面に身を投げ出した。伏せた姿勢でナーザをふり返った。
 少年の体を巻くように、青みを帯びた白光が螺旋を描いて走った。
 光は弾け、幾十の刃となって正面の死体の群れに降り注ぐ。
 ズタズタに体を引き裂かれ、それでもほとんどの死体は立っていた。が、明らかに動きは鈍くなっている。
 シルフィスは素早く立ち上がった。杖を倒れた死体の左胸に突き下ろす。……意外と脆く胸が陥没し、死体は奇妙に間延びした声を上げて両手を宙に伸ばし──土くれのように崩れ去った。
 ナーザも戦っていた。
 踏み込んで蹴り出した踵が死体の胸を打ち抜き、崩れた塊へと変える。手のひらに出現させた雷球を前方の死体に投げつける。雷球は正確に左の胸を突き破った。
 動きの止まった死体をかき分けるようにシルフィスは杖を振るった。
 群れに、わずかな隙間ができた。
「ナーザ!」
 叫んで、その隙間に突進する。ナーザの反応は満点だった。シルフィスの後をぴたりと追った。
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