祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
ふたつ名は魔法使い殺し
 シルフィスは天井の端へと歩を進めた。
 見下ろせば、瓦礫の中を行くナーザ姿が遠ざかりつつある。最大限のスピードで瓦礫を抜け、雷帝と死体の軍隊の進む方角に先回りしようとする意図が見て取れた。
 だが、ナーザを見送ってやる時間はなかった。シルフィスは、ナーザがしていたようにリシュナを入れた布袋を斜め掛けにした。ナーザとは別の場所から天井を降り、ネイロフが消えた中庭へと向かう。
 物陰から様子を窺うと、死体兵の最後尾が中庭を出ていくところだった。歩みは遅い。ナーザは余裕を持って彼らを待ち伏せることができるだろう。
 だが、同じ平面に立つと、上から見下ろす以上に圧倒的な数だった。これをひとりで迎え撃つ───。
 心が揺れ動いた。
 無理だ、ナーザひとりじゃ。自分も行って一緒に戦いたい。
 浮かんだそんな考えを、シルフィスは急いで振り払う。
 ひとりがふたりに増えても、結果は同じこと。けれど、雲を払えば死体兵は倒れると、ナーザは言った。雷帝だった彼の言葉を信じよう。
 死体兵の最後の一体が視界から去るの待って、シルフィスは中庭を突っ切った。
 ネイロフが姿を消した場所に辿り着くと、壁に地下に降りる階段が口を開けていた。仲は暗いが、底の方にぼんやりと明りがある。
 慎重に、だが、できるだけ速く、階段を降りた。
 階段の底は、土が剥き出しになった地下室で、壁に松明がひとつ頼りなく燃えていた。
 三方に細い通路が伸びている。
「右よ」
 リシュナは三つの通路を見るなり言った。
 シルフィスはためらわず右の通路に進む。
 通路は直線と見せて、微妙に曲がっているようだ。侵入者の方向感覚を狂わせるためだろう。
 地下室の松明の明りが全く届かなくなる辺りで、次の小さな明りが見えた。そこで通路はふたつに分かれる。リシュナはふたたび、右、と言った。
 が、その道は行き止まりだった。
 リシュナの記憶違いではない。通路自体が崩れている。
 シルフィスは指で土の塊に触れてみた。柔らかく、湿っていた。崩れたばかり──いや、崩したばかり、か。
 我が伯父ながら、周到な男だ、ネイロフ。
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