祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 閉まったドアから正面の客へと、シルフィスは視線を移した。
 肩の線が細い。女性か。顔を隠しているのは、身分が高いということだろうか。フードの下から唇だけ覗いているが……。
 ガタン、と派手に椅子の音をたてて、シルフィスは立ち上がっていた。
 逃げようとしたのだ。
 が、
「逃げないでほしい、ディアナム」
 切るような声に動きが止まる。
 観念して、彼女を見た。彼女がおもむろにフードを落とすのを。
 艶やかな黒髪を無造作に束ねただけのエディアがそこにいた。黒曜石の瞳が真っ直ぐにシルフィスを見上げた。
 夢の中で見た幻だと思っていた、大人の女性になったエディア。
 貪るような視線をしているのではないかと恐れて、シルフィスはエディアから目を逸らす。胸が熱くて、苦しい。
 座らないか、と言われたけれど、そのまま立っていた。しばらく待ったあと、諦めたように小さく息をついて、エディアは話し出す。
「まずは礼を言う。よく『あれ』を取り戻してくれた」
「僕ひとりがしたことじゃない。……ホントは、僕がひとりでカタをつけなきゃいけないことだったのに、大勢を巻き込んでしまった」
 低く押し出すようにそう言うと、エディアは数秒押し黙ったが。
「すまなかった」
 その唇から出た意外な言葉に、シルフィスは顔を上げた。
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