祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
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 ……階段を一階のフロアーまで降りると、珍しくクルカムがカウンターの隅で飲んでいた。
 シルフィスはカウンターのそばを通りながら、なんとはなく歩調を緩める。
「客人は」
 問われて、クルカムの横で足を止めた。
「……お帰りになりました。仔細があるようで、裏から。マスターによろしく、と」
「そうか」
 沈黙。
「……で、おまえは……」
「僕?」
「いや」
 クルカムは指先でトントンとカウンターを叩いた。特に意味はない様子で。けれども、何か考え事をしているようにも見えて。
 シルフィスはその場を動かずマスターの指を見つめる。何の説明もなしで自分を椅子に押さえつけた指。良かったな、という空耳といい、聞きたいこととか言いたいこととか、胸の奥にあるんだけど。
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